東京大学総長・次期総長予定者・総長選考会議宛
意見書
要求項目
1.今回の総長選考の一連の過程、とくに2020年9月7日の総長選考会議の議事進行について客観的な調査・検証を行なうため、東京大学総長直下に調査委員会を設け、速やかに疑惑解明にあたること。同調査委員会は、総長選考会議の現委員以外のメンバーからなるものとする。総長選考会議は、調査にあたって必要とされる当日の会議を録音した音源や詳細な議事録を調査委員会に提出し、調査に全面的に協力すること。また、調査委員会はその調査・検証のプロセスおよび結果を学内外に公開すること。調査委員会における総長選考過程の検証にあたっては、われわれの緊急アピールのうち、アピール3で指摘した、本年4月に行なわれた総長選考会議内規の改正をめぐる問題点ほか、不透明な選考を許すことになった制度的瑕疵についても十分に吟味すること。
2.1の調査・検証結果を踏まえ、総長選考会議は、今回の総長選考の過程を真摯にみずから検証し、その検証結果とともに、総長選考の真の意味での「透明性・公平性」を高めるための方策をすみやかに本学全構成員に対して提示すること。その際、われわれの緊急アピールに寄せられた本学構成員の率直な意見(添付資料「緊急アピールに対する賛同者の声」)に耳を傾け、総長選考会議が考える「主体的」な総長選考と一般構成員の考える選考の「透明性・公平性」とがいかに乖離しているかを十分に認識すべきこと。
3.われわれは、今回の総長選考において総長選考会議への不信感をもたらしたものが、「総長選考会議が主体となって進める選考」(本年4月28日付、総長選考会議議長名による通知より)と称されるところの、総長選考会議の「主体性」に関する了解の齟齬にあったと考える。この齟齬を解消するためには、総長選考をめぐる検討や議論を総長選考会議内にのみとどめるべきではない。ついては、2の総長選考会議の自主的改善策とは別に、東京大学総長直下(ないし、次期総長直下)に「総長選考に関する懇談会」を設け、国立大学法人化以降の総長選考のあり方を総合的に検証し、学内外の正確な状況認識にもとづく、将来的な総長選考の大局的な方針を検討することによって、総長選考のあり方に関する全学的な合意の再形成を図る。同懇談会には、教員代表、職員代表のほか、過半数代表者、学生自治会などの代表、東京大学新聞をはじめとする学内メディアの代表も加わることが望ましい。
【詳しい全文は下記およびPDFをご覧ください。】
この意見書はWeb公開ととともに
東京大学総長・次期総長予定者・総長選考会議議長および委員に送付いたしました。
※このサイトは、2020年9月16日に東京大学総長選考会議議長宛に教員有志から送られた質問状、および、9月23日に届いたそれに対する回答、さらに、その不十分な回答に対する公開質問状をWeb公開するために作られました。関連報道などのリンク集もあります。
「政府は、3月2日、国立大学の学長を選ぶ「学長選考会議」の権限を強化して「学長選考・監察会議」とする国立大学法人法改正案を閣議決定し、今国会に提出するとしています。(『朝日新聞』3月3日付、『日本経済新聞』3月2日付)。わたしたちは、学長と学長選考会議の権限をむしろ縮小して限定すべきという立場から、この改正案の廃案を求めます。」
検証報告書へのコメント
2020年12月11日、総長選考過程検証委員会の報告書が五神真総長のもとに提出され、東京大学のサイトにて、総長の「総長選考プロセスの検証結果を受けて」という声明とともに公開されております。
令和2年度総長選考会議における総長の選考過程の検証報告書(令和2年度総長選考過程検証委員会)〔以下、報告書〕(PDFファイル: 845KB)
これはわれわれ教員有志が東京大学総長・次期総長予定者・総長選考会議に宛てた10月5日付の意見書における要求項目1に応える内容であり、ともかくも一定の応答がなされたことを評価したいと思います。
【検証委員会の委員構成について】
報告書の内容に触れるに先立ち、検証委員会の委員構成が孕む問題点を指摘しておかなければなりません。その委員とは、泉徳治氏(委員長)、樋渡利秋氏、田中克郎氏、菊田行紘氏、大河原遼平氏の5名です。注目すべきことに、この検証委員全員がTMI総合法律事務所というひとつの法律事務所のメンバーです。
12月11日の五神総長の声明に「私もこの検証作業は東京大学にとって極めて重要な意味があると考え、ただちに泉徳治弁護士(元最高裁判所裁判官)を委員長とし、5名の弁護士によって構成される検証委員会を立ち上げることといたしました」とあるところから、この委員構成は、総長自身の判断によるものと思われます。
筆者〔田中純〕は、ヒアリング対象者となった10月末の時点で、検証委員会の委員全員が同一事務所の弁護士であることを正式に確認し、このようにまったく同質的な集団に検証を委ねることの妥当性には強い疑義がある旨を東京大学の担当部署に伝え、こうした委員構成の理由について問い質しました。その際とくに、日本弁護士連合会が2010年7月に定めた「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」において、「マスコミ等を通じて不祥事が大々的に報じられたり」した場合には、従来の弁護士のみによる「内部調査委員会」に代え、「第三者委員会」を設けることが「不可避」とされ、「事案の性質により、学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者が委員として加わることが望ましい場合も多い」と指摘されていることにもとづき、総長選考は一般企業ではなく大学という特殊な組織体に関わるのだから、たとえば教育行政に通じた学識経験者やジャーナリストを委員として加えるべきだったのではないか、と疑問を呈しました〔その実際の文面はこの文章の末尾に【資料】として記載〕。
それに対する東京大学担当部署を通じたメールによる回答(11月4日)は、現総長の任期の関係もあり、11月中には検証を終わらせることが望ましいと考えられたため、早急な委員会の組成、検証の機動性の点から、多様な人材が所属するTMI総合法律事務所に依頼することとした、というものでした。つまり、東京大学執行部としては、これはあくまで「選考プロセスについての検証」であるから、「法曹によることが適している」という判断を下した、という趣旨です。しかし、後述するように、検証を「選考プロセス」の法的な手続き論に留めたがゆえに、今回の報告書が問題の本質的検討をなおざりにしていることは否めません。
ヒアリング対象者となった筆者に対し、検証委員会は、報告書の公開まではヒアリングに関係する情報の開示を控えることを要請しました。そのため、以上のような経緯をただちに公にすることはできませんでした。報告書が公開されたことを受け、ここにそれを示し、検証を「選考プロセス」の法的妥当性のみに留めることを前提とした検証委員会の位置づけおよびその委員構成が多大な問題を孕んでいることを指摘しておきます。検証を法的手続き論に終始させることは、今回の総長選考プロセス混乱の背景にある、国立大学法人全体に及ぶ危機的状況を矮小化してしまうことにつながるでしょう。現総長の任期との関係から急ごしらえで編成された同質的な検証委員会によるものではなく、このたびの報告書には欠けている、大学運営そのものの問題の核心に迫るような「検証」を行なうことこそが必要です。報告書の内容に立ち入るに先立ち、委員構成からもうかがえる、その明らかな限界について、まず注意を喚起したいと思います。
【報告書の内容について】
報告書に記された検証方法のなかで注目すべき点として、一連の経緯で焦点となった2020年度第7回選考会議(9月7日)に関し、議事の録音は消去されたと報道されていましたが、検証委員会は音声データの復元により、その一部の音声を確認したとのことです(p.6)。
本報告書は、2020年度の選考会議全体の事実経緯に関する検証(p.6-17)を踏まえ、「内規改正の適否に関する判断」(p.17-20)、「第2次候補者選定の合意の成否に関する判断」(p.20-25)、「第1次候補者及び第2次候補者の氏名の発表の適否に関する判断」(p.25-27)を示しています。
「内規改正の適否に関する判断」については、上位法規である国立大学法人法や「国立大学法人ガバナンス・コード」に即して、相当性の点で問題はないと結論づけられています。この判断は法規的・形式的な妥当性しか問えない検証委員会の性格上、十分に予想できたことであり、内規改正のもたらす実質的な悪影響を指摘してきたわれわれの立場からすれば、非常に不満とするところです。検証委員会の結論を踏まえて逆に言えば、国立大学法人総長(学長)のあり方の実質的妥当性は今後、国立大学法人法をはじめとする上位法規まで含めた、法的規定それ自体の孕む政治的問題として問われなければならないでしょう。
「第2次候補者選定の合意の成否に関する判断」に関しては、「藤井候補及び染谷候補を第2次候補者に選定することの合意の成否」「永井候補を加えた3人を第2次候補者に選定することについての合意の成否」のいずれについても、「合意」は成立していたという判断がなされています。その際、後者については、「異議を述べる委員はいなかった」との事実認定のもとに、4回行なわれた「意向分布確認のための投票」を踏まえた「合議」の結果として、「合意」されたと見なされています。そこには次のような記述があります──「第7回選考会議に出席していた委員の中には、内心において第2次候補者を3人とし、永井候補を3人目の第2次候補者とすることに不満を抱いていた委員もいたと考えられるが、その委員も会議の場で異議の発言をしていない以上、会議では合意の意思表示をしたと認めるほかない」(p.21)。
こうした検証委員会の判断は、明確な異議のなかったことをもって合意が成立したと見なすものですが、その点のみが強調されるがゆえに、次の2点の十分な検証がないがしろにされている感を否めません。具体的には、1.意向分布を確認するための投票か表決かの明確な表明がなされたのか否か、2.表決であった場合には「了解事項1.(2)」に抵触する、議長および退席していた小林委員の票の扱いです。検証委員会は、すべての投票を「意向分布確認のための投票」と認定することにより、なし崩しに2の点を不問に付していますが、これは「意向分布確認のための投票」と称すれば、実質的に「表決」にあたる決定ができる余地を生んでしまうものではないでしょうか。了解事項によって厳密に規定された「表決」を採用せず、「意向分布確認のための投票」を繰り返したこと自体が、議長による恣意的な議事運営であることをまず糺すべきではないでしょうか。
まさにその点について、「第7回選考会議における議長の議事運営一般の妥当性」の項目で検証が行なわれています(p.22)。第2次候補者の決定と意向投票との関係に関し、議長が会議の席上冒頭で述べた見解について、報告書は「独自の考えを押し付けたり、一部の外部グループの考えを代弁するようなものではない」としたうえで、次のように記しています──「そして、議長は、穏やかな口調で上記の考えを披露しており、第7回選考会議における議長の議事運営一般は妥当なものであったと評することができる」〔下線部は引用者〕。「穏やかな口調で」とは、いったいどのような根拠による認定なのでしょうか。また、表面的には「穏やかな口調で・・・披露」していれば、議事運営の妥当性が保証されるわけでもないでしょう。客観的に形式的な検証に終始している報告書のなかに、「穏やかな口調で」という主観的な印象の記述が出現することは異様です。重要な問題は、議長という特権的な発言権のある立場の人物が、まず議事を誘導するような私的見解を述べたという事実にあり、元総長という議長自身の個人的属性も与った、その発言の重みが会議の席上で有した実質的な効力です。その点を無視して行なわれた、一般的な見解を「穏やかな口調で」述べたという報告書の事実認定は、空虚なものと言わざるをえません。
続く「第7回選考会議の4回目の投票の際の議長の議事運営の妥当性」(p.23)では、その点に深く関連する指摘として、国立大学法人法における「議長は、学長選考会議を主宰する」という規定をもとに、議長職にある者は、「自らの意向を述べる自由を有するとはいえ、できるだけ中立の立場で他の委員の自由な発言を促す方が、より望ましい」と記されています。そのうえで報告書が、「第7回選考会議の4回目の投票の際の議長の議事運営の妥当性については、やや疑問を呈さざるを得ない」と書いていることを、選考会議はきわめて重く受け止めるべきでしょう。
さらに「第7回選考会議で議長が匿名告発文に言及したことの妥当性」(p.23-24)では、「議長が第7回選考会議で宮園候補に係る匿名の告発文に言及したことは、妥当性を欠くといわざるを得ない」とはっきり指摘されています。この一事をもってしても、議長による議事運営には致命的な問題があったというのがわれわれ教員有志の認識であり、それゆえ、報告書が、議長の発言は「妥当性を欠くものといわざるを得ないものの、第7回選考会議における第2次候補者選定に関する合意を無効ならしめるほどのものとは認め難い」としていることは、適切な判断とは思えません。
われわれが一種の箝口令として批判した「第2次候補者の氏名の発表」については、次のように記されています──「意向投票の投票資格を有する者が教授会の構成員等であることを考慮すると、〔「学内のみに公表するため取扱いにご留意願います」と〕付記を加えるほどの必要性があるかはやや疑問であり、閉鎖的な印象を与えることは否めないから、この措置を続けるかどうかは、次回以降の選考過程を検討する上での課題の一つといえよう」。しかし、前回の総長選考においては、記者発表まで行なわれてオープンであった情報を秘匿するかのような今回の措置は、「透明性・公平性」を謳う総長選考のあり方として明らかに後退であり、検証委員会にこのように進言される以前に、誤った方針であったと選考会議自体から表明すべきところです。
報告書では「代議員選出の第1次候補者の氏名等の漏洩」という項目のもと、「第1次候補者の中には第1次候補者となったこと及びその得票数を公表されたくないと考える者がいる可能性が考えられ、公表されないという利益は保護されるべきである」と断じていますが、これは検証委員会が一方的に決定すべきことではなく、総長選考方法を再検討するなかで、氏名を公表することの公益性と選出された第1次候補者の利益との双方を十分に吟味したうえで決められるべき事柄です。にもかかわらず、公益性を担保するために行なわれた自主的な公表をあたかも指弾するような「漏洩」という表現は、この報告書に記されるべきものではないでしょう。
同じことは「第7回会議の議事内容の漏洩」という項目についても言えます。報告書みずから、「議事を録音し、その反訳書等を配る行為が国立大学法人法18条違反に直ちに該当するか否かはともかく」と書くに留まり、司法的な判断を明確には下せていません。その一方で、「議事が同条において保護されている「秘密」に該当することも明らかである」という論拠のみにより、録音・配付の行為を「遺憾な行為といわなければならない」と断定しています。明らかな「公益通報」の趣旨で録音・配付された議事内容を「漏洩」と呼ぶこと自体が誤りであるとわれわれは考えます。このような公益通報によらなければ、議長による不適切な議事運営は闇に葬られてしまったのではないでしょうか。さらに言えば、総長選考という大学構成員にとってきわめて肝要なプロセスのなかに秘密会議を設けること自体の重大な弊害もまた、今回の一連の経緯で明らかになりました。透明かつ公平であるべき総長選考の過程は、「人事の秘密主義」を排した、明確な学内民主主義の原則に貫かれるべきだとわれわれは考えます。
この点に関連し、「選考会議の事務局機能の強化」の項目では、「第7回選考会議の議事内容の漏洩をはじめとして」と記したうえで、選考会議の運営に混乱が生じたことについて、「事務局には一定の補佐責任があるといわざるを得ない」と指摘されています。選考会議の主たる責任は主宰者である議長と委員が担うべきものであることは言うまでもありません。「補佐責任」なるものの範囲を明確に規定しないままに、このような記述を行なうことは、事務局に過大な配慮義務を負わせることにならないかと危惧します。上述したように、「議事内容の漏洩をはじめとして」という表現は、今回の公益通報の趣旨を誤解させる記述として不正確なうえ、殊更にこの点を強調することは、無用な情報統制を招き、総長選考過程をよりいっそう不透明なものにしかねません。
【報告書を受けて】
報告書は、「学内委員の在任期間」などをめぐり、次期総長選考に向けた選考システムの改善について、聞くべきものをもつ参考意見を述べています。しかし、言うまでもなく、そうした改善の方策は東京大学自体が決定すべき事柄です。五神総長は12月11日の声明のなかで、「検証委員会の報告書を精査し、広く学内外の意見をお聞きしながら、如何なる問題を如何なる手順で検討すべきかを考え、私がやるべきことについては、遅滞なく対処していく所存です」と述べられています。ついては、まずは現選考会議および東京大学執行部から、本報告書についての明確な見解が表明され、今後の方針が示されることを期待します。
われわれ教員有志は10月5日付の意見書における要求項目2として、今回の報告書のような調査・検証結果を踏まえ、総長選考会議が、今回の総長選考の過程を真摯にみずから検証し、その検証結果とともに、総長選考の真の意味での「透明性・公平性」を高めるための方策をすみやかに本学全構成員に対して提示することを求めています。さらに、要求項目3としては、東京大学総長直下(ないし、次期総長直下)に「総長選考に関する懇談会」を設け、国立大学法人化以降の総長選考のあり方を総合的に検証し、学内外の正確な状況認識にもとづく、将来的な総長選考の大局的な方針を検討することによって、総長選考のあり方に関する全学的な合意の再形成を図ることを提案しています。これらの要求が現総長ないし次期総長のもとですみやかに実現されることを、ここに改めて要望します。
2020年12月12日
文責・田中 純
【資料】
検証委員会の委員構成に関する、筆者〔田中純〕から東京大学担当部署への照会事項(11月2日付メール文面抜粋)
3.委員構成の妥当性について
頂戴した情報によると、検証委員会の委員はすべてTMI総合法律事務所の弁護士の方々です。2で指摘した東京大学自体の方針にも関わりますが、このように同質的な委員構成になっていることの理由をお教えください。より具体的に申し上げれば、ご存じのように、日本弁護士連合会は2010年7月に「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を設けております。
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/100715_2.pdf
このガイドラインによれば、「マスコミ等を通じて不祥事が大々的に報じられたり」した場合には、従来の弁護士のみによる「内部調査委員会」に代え、「第三者委員会」を設けることが「不可避」とされています。その場合、ガイドラインの第5の1の(2)「委員の適格性」には、「事案の性質により、学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者が委員として加わることが望ましい場合も多い」とあります。
にもかかわらず、今回の検証委員会は旧来の「内部調査委員会」の形式を踏襲しているように思われます。本件は一般企業ではなく大学という特殊な組織体に関わるため、たとえば教育行政に通じた学識経験者やジャーナリストを委員として加えるべきだったのではないでしょうか。
総長選考という東京大学のきわめて重要な事案について「マスコミ等を通じて不祥事が大々的に報じられた」にもかかわらず、日弁連のガイドラインに沿って、「学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者」を加えた第三者委員会として検証委員会を発足させないのはなぜなのでしょうか。その理由をお教えください。
- 連帯声明── 以下の声明に賛同し、連帯しています(2020.11.2) ──全国の大学教職員、これまで大学で学んだ、いま大学で学び、これから大学で学ぶすべての人々への連帯声明文
学問の自由・大学の自治は憲法第23条に記された日本国の法治基盤にある考え方です。ところが、学校教育法や国立大学法人法の改悪とその拡大解釈により、大学の自治の精神が近年、急速に破壊されています。大学の自治、とりわけ学長選考や人事権を巡る紛争が、東大・筑波大・大分大など各地で起こっています。成果第一、経営第一のトップダウンの考え方が導入され、一見華やかに見える分かりやすい成果の陰で、人員削減・効率化の名のもとに教育現場は悪化の一途をたどっています。現場の教職員の意見は運営にまったくと言っていいほど反映されず、学生たちの不満も高まり、大学での学びそのものが危機に瀕しています。
多くの大学で学長の権限が強まり、教職員は巧みな規則の変更や管理体制の強化によって恐怖政治のような環境におかれ、たとえ矛盾を感じていても声を上げることもできず、膨大な業務に追われてみな疲弊しています。このような環境で、自由で独創的な研究や豊かな学びができるわけはありません。
政府の改革は教育・研究の長期的な社会への貢献を顧みず、大学をひたすら自分たちの意向に従う下部組織へと追いやろうとしています。こんなことをしていたら、国家は必ず道を誤り、国民は大変な不幸を背負うことになる。これは歴史が教えるところです。私たちは大学の自治・学問の自由の下で学び研究してきたものとして、このことだけは言わずにおれません。
この声明文は、自治のみならず大学の伝統やアイデンティティまでが破壊されていることに声を上げた教職員や市民たちが、日本各地で同様の危機が深刻化していることに気づき、連帯した結果生まれたものです。研究・学びが誤った方向に向かっていることに、私たちは深刻な憂慮の念を抱いています。
学生のみなさんが大学で過ごす時間はそれほど長くないかもしれません。しかしそれは自分の頭で考えて行動するために必要な“知”を修得する貴重な学びの時間です。そうした学びがあってはじめて、正しい判断のもとに社会をひっぱっていける人が育ちます。大学で学び、現在社会でご活躍のみなさまも、これからお子さんを大学へ送り出そうという保護者のみなさまも、この点はご同意くださるでしょう。大学の危機は、日本社会の未来の危機でもあります。いまからでも遅くはありません。大学の自治を取り戻し、自由で豊かな研究の場、学びの場を取り戻すために、社会のみなさまからのご賛同を広く募ります。
※個人としての賛同の表明→賛同者フォーム
- 意見書東京大学総長・次期総長予定者・総長選考会議に対する意見書3通(2020年10月5日付)です。
五神真・東京大学総長宛の意見書
意見書
東京大学
総長 五神 真 殿
今回の総長選考過程に多くの疑義が残っている状況に鑑み、2020年9月28日付の緊急アピールにおいて、われわれ教員有志が意向投票の即時延期を求めたにもかかわらず、小宮山宏・総長選考会議議長は意向投票を強行しました。その結果として、第1回投票で過半数を制した候補が次期総長予定者と決定しました。
しかしながら、小宮山議長に対するわれわれの質問状(2020年9月16日付)および公開質問状(2020年9月23日付)に対する回答は、総長選考の「透明性と公平性」を確保するうえで、はなはだ不十分なものであったと考えます(詳細はわれわれのWebサイト〔下記〕における「公開質問状に対する「回答」への応答」をお読みください)。また、15部局長から議長および委員宛てに出されたという要望書(2020年9月24日付)、および、同じく議長および委員に宛てられた元理事有志からの要望書(2020年9月25日付)に対する回答は、われわれのような一般教職員に対して直接開示されておらず、そこで説明を求められていた疑惑はまったく晴れておりません。とくに、15部局長からの要望書で指摘されていると報道のあった、本年9月7日の総長選考会議における選考方法の妥当性ならびに匿名文書の取り扱いなどをめぐる疑義については、曖昧模糊とした情報が拡散されるばかりで、明確な説明がなされたとは言い難い状態です。
このような状況を背景とし、われわれ教員有志による緊急アピールに対しては、9月28日正午から10月1日20時までのわずか3日半あまりの短期間に、本学構成員のうちから400名を超える賛同者が集まりました。ここには教職員のみならず、多くの学生も含まれております。本意見書にはそうした賛同者の声を一部抜粋して添付しました。これらの声が示すように、今回の総長選考過程に対する疑念は根深く、全構成員にまで届く明確な説明が必要とされていることは間違いありません。
ついては、今般の総長選考のプロセスに関して、総長選考会議議長および同会議委員に適切な説明責任を果たされることを求め、なおかつ、今後の総長選考をより透明にして公正なものとすべく、ここに以下の取り組みを、東京大学総長であられる貴職ならびに総長選考会議議長と同会議委員各位、および、次期東京大学総長予定者に要求いたします。総長選考会議宛および次期総長予定者宛の意見書については、本意見書にその写しを添付いたします。
要求項目
1.今回の総長選考の一連の過程、とくに2020年9月7日の総長選考会議の議事進行について客観的な調査・検証を行なうため、東京大学総長直下に調査委員会を設け、速やかに疑惑解明にあたること。同調査委員会は、総長選考会議の現委員以外のメンバーからなるものとする。総長選考会議は、調査にあたって必要とされる当日の会議を録音した音源や詳細な議事録を調査委員会に提出し、調査に全面的に協力すること。また、調査委員会はその調査・検証のプロセスおよび結果を学内外に公開すること。調査委員会における総長選考過程の検証にあたっては、われわれの緊急アピールのうち、アピール3で指摘した、本年4月に行なわれた総長選考会議内規の改正をめぐる問題点ほか、不透明な選考を許すことになった制度的瑕疵についても十分に吟味すること。
2.1の調査・検証結果を踏まえ、総長選考会議は、今回の総長選考の過程を真摯にみずから検証し、その検証結果とともに、総長選考の真の意味での「透明性・公平性」を高めるための方策をすみやかに本学全構成員に対して提示すること。その際、われわれの緊急アピールに寄せられた本学構成員の率直な意見(添付資料「緊急アピールに対する賛同者の声」)に耳を傾け、総長選考会議が考える「主体的」な総長選考と一般構成員の考える選考の「透明性・公平性」とがいかに乖離しているかを十分に認識すべきこと。
3.われわれは、今回の総長選考において総長選考会議への不信感をもたらしたものが、「総長選考会議が主体となって進める選考」(本年4月28日付、総長選考会議議長名による通知より)と称されるところの、総長選考会議の「主体性」に関する了解の齟齬にあったと考える。この齟齬を解消するためには、総長選考をめぐる検討や議論を総長選考会議内にのみとどめるべきではない。ついては、2の総長選考会議の自主的改善策とは別に、東京大学総長直下(ないし、次期総長直下)に「総長選考に関する懇談会」を設け、国立大学法人化以降の総長選考のあり方を総合的に検証し、学内外の正確な状況認識にもとづく、将来的な総長選考の大局的な方針を検討することによって、総長選考のあり方に関する全学的な合意の再形成を図る。同懇談会には、教員代表、職員代表のほか、過半数代表者、学生自治会などの代表、東京大学新聞をはじめとする学内メディアの代表も加わることが望ましい。
以上は、今後の総長選考をより一層透明性・公平性のある選考とするための提言であり、4月28日の文書で総長選考会議議長が述べているように、「社会からの期待に応えられるよう、東京大学の良識や伝統に則して、各構成員の真摯な行動により、総長選考が適正に実施されなければならない」がゆえの要求です。貴職におかれては、上記1の調査・検証の実現と3に記された総長選考のあり方をめぐる全学的な合意の再形成をとくに強くお願いいたします。
本意見書に対する貴職のすみやかなご対応を切に希望しております。
2020年10月5日
東京大学教員有志
代表 田中 純(総合文化研究科)
阿部公彦(人文社会系研究科)
佐倉 統(情報学環)
清水晶子(総合文化研究科)
水越 伸(情報学環)
山田広昭(総合文化研究科)
連絡先:田中 純
2020sochosenko.frage@gmail.com
Webサイト:http://2020sochosenkofrage.mystrikingly.com/
添付資料:
1.緊急アピール(2020年9月28日付)
2.緊急アピールに対する賛同者の声(「9.28.緊急アピール賛同者のお名前、人数、コメント」より)
藤井輝夫・次期総長予定者、および、小宮山宏・総長選考会議議長ならびに同会議委員に対する意見書はほぼ同内容のため、それぞれの意見書全文へのリンクのみを記します。
- 緊急アピール賛同の声
2020年9月28日(月)正午に公開した緊急アピールに対して数多くの賛同の声をいただきました。まことにありがとうございました。10月1日(木)20時点で締め切り、最終的に賛同いただいた方のお名前や人数、そして寄せられたご意見の一部を公表いたします。
408名の教職員、学生のみなさまのお名前や声はバラバラではありません。たがいに結びついてウェブとなり、キャンパスの文化的土壌を汚染から救う菌糸の役割を果たすことでしょう。
総数 408名
教員195名:職員28名:学生185名
- 緊急アピール── 意向投票の即時延期要請、候補者情報開示、および、現状の問題点と望ましい総長選考のあり方について ──
【前書き】
われわれ教員有志は、東京大学総長選考会議議長に宛てた2020年9月16日付の質問状、および、それに対する回答を不満として出された2020年9月23日付の公開質問状において、東京大学総長選考の現在にいたるまでのプロセスに関し、透明性と公平性の回復を求めました。しかしながら、同会議議長からは一連の事態について満足のゆく回答は得られませんでした。公開質問状に対しては、本日28日正午という期限までの回答すらありませんでした。【9月28日13時6分追記:13時5分に回答がありました。それに対する応答も下に記しました。】
この間に、東京大学の4学部長および研究所長15名連署による、総長選考会議の審議過程に関する説明を求める要望書のほか、東京大学の元理事10名連署による、選考プロセスの一時停止と十分な調査検証を行なったうえでの再開を提案する要望書が、総長選考会議議長と委員宛に届けられています。これら一連の経緯は複数のメディアによって報道され、社会的な関心もきわめて高くなっています。
総長選考会議はこれら複数の要望書や質問状に対して、いまだ納得できる回答を示すことができていません。総長選考過程に多くの疑義が残っている現状で、強引に意向投票に進み、総長予定者の選考にいたることは、東京大学の歴史に必ずや大きな禍根を残すことでしょう。
よって、切迫した事態に鑑み、われわれ教員有志と賛同者はここに、次の3点を緊急アピールとして公表いたします。
【アピール1──意向投票の即時延期と総長選考過程の調査・検証、適正な体制による選考】
このような状況下で9月30日の意向投票実施は不可能です。われわれ教員有志とその賛同者は意向投票をただちに延期することを総長選考会議および東京大学総長に強く要請します。総長選考をそのようにいったん停止したうえで、ここにいたるまでの総長選考のプロセスを、総長選考会議ではない組織によって客観的に調査・検証し、その結果を学内外に公開することを求めます。そして、その調査・検証結果を踏まえ、適正な総長選考が行ないうる体制で、誰もが納得のゆく総長選考を再開することを望みます。
【アピール2──総長候補者情報の開示】
総長選考のプロセスの透明性と公平性を少しでも回復するために、われわれ教員有志によって行なうことが可能な措置として、次の情報をここに公開いたします。
→意向投票が行なわれ、第1回投票で過半数の票を得た藤井輝夫氏が次期総長予定者となったことにより、第1次総長候補者および第2次総長候補者の氏名・職名の情報はその役目を終えたと考え、本サイト上での掲載を終了します。いずれの情報も他メディアですでに報道されております。【2020年10月2日18時27分記】
1.7月7日の代議員会における投票によって選出された第1次総長候補者11名の氏名・職名(50音順、2以下も同様)
2.7月22日までに経営協議会から推薦のあった第1次総長候補者1名の氏名・職名
3.辞退者を除き、上記1および2によって確定した第1次総長候補者10名の氏名・職名
4.9月7日の総長選考会議にて選定された第2次総長候補者3名の氏名・職名
これらのいずれについても、総長選考会議は公開範囲を代議員のみ、あるいは、学内教職員のみに限定していますが、総長選考会議規則およびその内規に、学内外への公開を禁止する規定はありません。また、公開を行なわない理由について照会した、われわれの質問状および公開質問状に対し、総長選考会議議長は合理的な理由を回答していません。
【アピール3──現状の問題点と望ましい総長選考のあり方】
われわれ教員有志は、質問状および公開質問状において、第2次総長候補者が前回総長選考の5名から3名に削減され、多様性が失われた理由を総長選考会議議長に問いましたが、その点についての明確な回答は得られませんでした。この削減の根拠となる総長選考会議内規の改正は、本年4月28日付でなされています。この内規改正においては、次のような重要な変更が2つの条項について行なわれました。
A.図1が示すように、第2次総長候補者の選定をめぐる改正前の第11条(図1左)が、現行の第8条(図1右)のように修正され、「その人格、学識、及び本学の教育研究を適切かつ効果的に運営する能力について」という条件が削られるとともに、「5名程度」という規定が「3人以上5人以内」と変えられている。
図1
B.図2が示すように、総長予定者の決定をめぐる改正前の第14条(図2左)が、現行の第11条(図2右)のように修正され、「第8条の調査」が条件として追加されている。
図2
まず、Aの人数規定について指摘すれば、意向投票とは本学全教員の意思を問うべき場であり、総合大学としてその意思決定のための選択肢はより多く示されるべきところ、それを「3人」にすることは、有権者の選択の幅をあらかじめ総長選考会議のみの判断で狭めてしまうものです。この人数規定は、国立大学法人化直後には「3人以上5人以内」の規定であったところ、内規改正によって「5名程度」とされたものであり、今回の再改正は多様性を重視する本学の理念に背反する、大きな後退と言わざるをえません。
さらに、Aの「その人格、学識、及び本学の教育研究を適切かつ効果的に運営する能力について」という条件削除について言えば、総長が備えるべき人格・学識・教育研究の運営能力を不問とし、「面接を含めた調査」を恣意的に一面的なものとしてしまう可能性を孕んだ、きわめて由々しき改悪にほかならないと考えます。
Bにおいて付け加えられた「第8条の調査」とは、ただいま指摘した「面接を含めた調査」であり、その調査の内容が総長選考会議の恣意に委ねられた一面的なものとなり、総長が備えるべき人格・学識・教育研究の運営能力を不問にしたうえで、その一面的な調査結果を意向投票の結果と同等に扱って総長予定者を決定することを可能にしてしまっています。旧内規の第11条が定める「面接を含めた調査」はあくまでも第2次総長候補者を絞り込むためのものであり、行なわれた調査の効力はそこで停止するのに対し、現行の第11条ではこの調査が意向投票後の総長予定者の決定までも強く拘束するものになっているのです。
以上のように、AおよびBの総長選考会議内規の改正は、全教員による意向投票の選択肢を総長選考会議の独断で狭めることを可能にしたばかりではなく、総長選考会議が行なう「面接を含めた調査」を恣意的・一面的なものにしてしまう道を開き、かつ、その調査を意向投票と同等に扱うことにより、総長選考会議の権限を極端に拡張するものであったことが明らかになります。その結果が今回の総長選考における第2次総長候補者の選定でありました。
本年4月に行なわれた総長選考会議内規のこうした改正は、総長選考に「透明性と公平性」をもたらすものであるどころか、総長選考会議の権限を代議員投票や意向投票に代表される学内民主主義よりも上位に位置づけ、総長選考のプロセスにおける学内民主主義を骨抜きにして、真の意味での「透明性と公平性」をはなはだしく毀損してしまうものです。われわれ教員有志および賛同者は、このような内規にもとづく今回の総長選考過程が、上に記した危惧をまさに具現化し、総長選考会議の極度のブラックボックス化と本学構成員の多くの意向とは背反した結果を招いてしまっていると考えます。
【まとめ】
それゆえにわれわれ教員有志および賛同者は、何よりもまず、目下迫りつつある9月30日の意向投票の即時延期を、総長選考会議および東京大学総長に対し緊急に要請します。そのうえで、現状にいたるまでの経緯の客観的調査・検証を通じ、適正な選考が遂行できる体制を築いたうえではじめて、総長選考は再開可能になると信じます。われわれ教員有志はそれに先立ち、第1次総長候補者と第2次総長候補者の氏名・職名の公開によって、総長選考の透明性と公平性を少しでも回復したいと考えました。われわれ教員有志と賛同者はさらに、今回の総長選考にいまだかつてない混乱をもたらした要因は、上述した内規改正をはじめとする、総長選考会議の独断的な権限強化にあると見定め、今回の総長選考のプロセス全体、とくに総長選考会議の議事運営に対する徹底した調査・検証のうえで、将来的には、総長選考のあり方に関する全学的な合意の再形成、そして、正しい意味における「透明性と公平性」を確実に保証する総長選考会議規則および同内規の改正をここに強く要求します。
2020年9月28日
東京大学教員有志
代表 田中 純(総合文化研究科)
阿部公彦(人文社会系研究科)
佐倉 統(情報学環)
清水晶子(総合文化研究科)
水越 伸(情報学環)
山田広昭(総合文化研究科)
連絡先:田中 純
2020sochosenko.frage@gmail.com
公開質問状に対する回答
9月28日13時5分(回答期限を1時間超過)に届いた回答です。すぐ下にこの回答への応答を記しました。
回答
東京大学教員有志の皆様
2020年9月23日付けの皆様からの『質問状への「回答」に対する公開質問状』を拝受いたしました。貴重なご指摘をいただいたことに改めて深く感謝申し上げます。
ご質問いただいた事項については、最初の質問状と同様、番号に沿って以下の通り回答いたします。1.今回の総⻑選考に先⽴ち、内規の丁寧な見直しを行い、第2次候補者の人数をそれまでの5 名から3〜5 名以内に変更致しました。言うまでもなく、この点を含む内規の変更についてはすべて所定のプロセスを経て行っております。5名を3〜5名以内に変更した背景には、平成27 年の改正国⽴大学法人法の施行や令和2年の国⽴大学ガバナンス・コードの策定などがあり、こうした社会的要請の背景もあって、総⻑選考会議が従来との対比でより主体的に選考に関与するのが望ましいとの選考会議における議論がありました。なお、選考会議の主体性を高める趣旨での3〜5名以内への変更という点については、2019 年12月の総⻑選考会議WGと科所⻑との懇談会で「総⻑選考会議が主体的に選考することをより明確にするため、第2次候補者の人数を、現行の「5名程度」から「3名以上5名以内」に変更することとする」と説明致しておりますほか、総⻑選考の公⽰に際しての議⻑談話(4月28日)でも、その旨の説明を行い、皆様のご理解をお願いしたところです。
総⻑選考会議は、⾃ら策定した選考基準「求められる総⻑像」に照らし、総⻑として6年間を東京大学のためにコミットする意志のある方を選ぶ責任と権限があります。そのような観点から議論を重ね、各候補者の適格性について、率直かつ多様性の観点なども踏まえた多面的な審議が行われた結果、候補者の絞り込みを行いました。
2.東京大学総⻑選考会議内規に関する了解事項(4)オ.に、「代議員会の議⻑は、第1次候補者の氏名を50音順によりその席上において発表する。ただし、各第1次候補者の得票数及びその順位はこれを発表しないものとする。」とされており、代議員会の席上で発表することのみ定めております。それ以外の取り扱いについては規定上明確なものはありません。公表の取り扱いについては、選考の都度、総⻑選考会議で決めております。
現在は、定められたプロセスに従いながら実際に選考を行うという段階にあります。どうかこの点をご理解賜りますようお願いいたします。
3.選考が行われたときは、国⽴大学法人法及び同施行規則に基づき、当該選考の結果、選考理由、選考過程を公表いたします。それまでの間、静謐な環境において、意向投票が実施できるようにするため、学内情報の取扱いに留意を求めたものです。公表の取り扱いについては、選考の都度、総⻑選考会議で決めております。
4.総⻑選考プロセスは、国⽴大学法人法の趣旨に則り、学内の意向のみに偏ることなく、学内委員及び学外委員から構成される総⻑選考会議が主体的に選考を行っていることを社会に対して説明することこそが透明性・公平性を確保することであり、今回の議⻑談話においても「総⻑選考会議が主体となって進める選考の透明性・公平性を⼀層高める」との表現を用いているのは、こうした趣旨によるものです。
回答は以上となります。
引き続き総⻑選考へのご協⼒を賜りますようお願い申し上げます。
2020年9月28日
東京大学総⻑選考会議
議⻑ 小宮山 宏公開質問状に対する「回答」への応答
東京大学総⻑選考会議
議⻑ 小宮山 宏 殿委員 各位
まず、回答期限を超過してであれ、ご回答を頂戴できたことに感謝申し上げます。本件、事態は切迫しており、公開質問状へのご回答であるため、すでに議論は社会に開かれていると考え、この場で応答させていただきます。文責は田中が負います。回答の番号に沿って行ないます。
1.ポイントは「5名を3〜5名以内に変更した背景には、平成27年の改正国⽴大学法人法の施行や令和2年の国⽴大学ガバナンス・コードの策定などがあり、こうした社会的要請の背景もあって、総⻑選考会議が従来との対比でより主体的に選考に関与するのが望ましいとの選考会議における議論がありました」という部分です。「総⻑選考会議が従来との対比でより主体的に選考に関与する」ことが何を意味するのか、たとえ総長選考会議で一定の議論があったにせよ、学内に対する説明があまりに不十分ではなかったでしょうか。総長選考会議が選考の「主体」であるとはいったいどこまでの「権限」を認めていることになるのか、その権限の範囲をはっきりと規定し、ブラックボックス化を防ぐことこそが、われわれは総長選考の「透明性と公平性」を確保するために必要なことだと考えます。また、「率直かつ多様性の観点なども踏まえた多面的な審議が行われた結果、候補者の絞り込みを行いました」とある点については、部局長からの要望書や元理事からの要望書でその絞り込みの正当性に関する疑義が表明されているところであり、総長選考会議の「主体的」な関与が実際には「独断的」なそれになっているのではないでしょうか。その他の記述は、最初の質問状へのご回答と同じくプロセスの確認にとどまっているため、われわれの質問への回答にはなっておらず、とくに論評いたしません。
2.「それ以外の取り扱いについては規定上明確なものはありません。公表の取り扱いについては、選考の都度、総⻑選考会議で決めております」とあり、公表を禁止する明示的な規則はないことが確認されました。われわれが質問したのは、そうであるならば、今回は総長選考会議の判断でいまからでも公開できるのではないか、公開すべきではないか、ということです。その理由は公開質問状で述べました。その点についてのご回答は今回も頂戴できませんでした。
3.これも「公表の取り扱いについては、選考の都度、総⻑選考会議で決めております」とあり、公表を禁止する明示的な規則はないことが確認されました。「静謐な環境において」が何を意味するのかが不明です。民主主義において必要なのは「静謐」ではなく、活発な「議論」ではないでしょうか。ことさらに「静謐」を要請する総長選考会議の意図は何であるかをおうかがいしたいと思います。教員が声を潜めて、十分な情報も得られないなかで行なうのが意向投票であるなどとは考えられません。また、選考プロセスに数々の疑惑が残る現状では「現在は、定められたプロセスに従いながら実際に選考を行うという段階」にはあるとは到底思えません。議長は「プロセス」を繰り返し強調なさいますが、そのプロセスに間違いがあった場合には、ただちにそれを停止する必要があるのではないでしょうか。
4.「総⻑選考会議が主体的に選考を行っていることを社会に対して説明することこそが透明性・公平性を確保することであり」とありますが、この場合の「社会」とは何でしょうか。議長は何者に対して「説明」なさっているのでしょうか。3のような閉鎖的な措置を取りながら、「社会」に対して説明するという主張がわかりません。「学内の意向のみに偏ることなく、学内委員及び学外委員から構成される」とあるところからは、「学内の意向のみに偏ることなく」という部分を重視なさっていることがうかがわれ、「学外」の委員(経営協議会委員)の多くを占める経済界が議長にとっての「社会」であるように見受けられます。そのように特殊な「社会」に対する「透明性」が、結局は、今回の事態が示すように教職員に対する「不透明性」になっているのではないでしょうか。
最後に、われわれはまだ「東京大学の良識や伝統」を信じております。それゆえに、今回の緊急アピールの冒頭に掲げた通り、意向投票の即時延期を議長および東京大学総長に強く求めています。元理事の方々の要望書にもあるように、ここでいったん立ち止まり、いままでの「プロセス」を検証したうえで、真に適正な体制で総長選考を再開する「勇気ある判断」を、貴職に切にお願い申し上げます。
2020年9月28日
東京大学教員有志
代表 田中 純(総合文化研究科)
阿部公彦(人文社会系研究科)
佐倉 統(情報学環)
清水晶子(総合文化研究科)
水越 伸(情報学環)
山田広昭(総合文化研究科)
連絡先:田中 純
元東京大学理事有志10名の要望書
大和裕幸氏(幹事)をはじめとする10名の元理事から、総長選考会議議長に宛てられた要望書です。
9月30日の意向投票延期が提案されています。
要 望 書
東京大学総長選考会議
議長 小宮山 宏 殿
委員 各位先生におかれましては、 次期総長の選考という重責を担われ、 ご多忙な日々を送っていらっしゃることと拝察いたします 。
私たちは以前、 理事として大学執行部に参加した者であり、 退任後も東京大学の発展を願い、その活動に注目してまいりました。 その意味でも、今回の次期総長選考には多大の関心を抱いております 。
その中で、本年9月16日付で東京大学教員有志から先生宛に提出された質問状、それに対し同9月23日付で先生が出された回答、ならびに同日に東京大学教員有志から再度出された公開質問状を拝見しました。
このやりとりにおいて、第2次候補者を従来よりも少人数としたこと、第1次候補者の氏名が公表されていないこと、第2次候補者の氏名についても取り扱いに留意するよう求められていること等について、その説明が求められています。 特に第2次候補者の氏名までもが学内公開のみで取扱注意とされた前例はなく、私たちから見てもこの措置には疑問を禁じ得ません。
先般、自由民主党の総裁選挙が行われましたが、この選挙においても候補者の氏名は「有権者である党員のみ」ではなく、広く社会に公表されました。実質的に一国の首相を選ぶのと一大学の総長を選ぶのでは重みが違うと言われるかもしれませんが、 先生ご自身、本年4月28日付の談話で「本学の運営を総理する総長に対しては、学内のみならず、日本、世界から大きな期待が寄せられている」という認識を述べておられます。そうであるならば、「学外の意見を取り入れる環境に対応することはない」という先生のご回答は、この認識と真っ向から矛盾するものと言わざるをえません。 大学にとって極めて重要な総長選考手続きに関して、学内からこのような疑問が表明されている以上、ぜひ真摯かつ明快なご説明をお願いしたいと思っております。
そのうえで、 私たちは先生と教員有志とのやりとりの文面だけでは事情がよくわかりませんでしたので、学内の複数の方々にインフォーマルにお尋ねしました。その方々によると、部局から選出された代議員による第1次候補者の選挙において、2位に大差をつけて1位となった方が、第2次候補者に残っていないとのことです。そして、その理由が学内の教職員にはまったく説明されていないとのことでした。 また、第1次候補者としては文系の候補者も女性の候補者もいたにもかかわらず、東京大学が全学を挙げて目指しているはずの「多様性」の確保という観点はほとんど尊重されなかったとも仄聞します。
もちろん、 第1次候補者の得票数がそのまま 第2次候補者の選考に 結びつくものでないことは、私たちも十分に心得ておりますし、選考会議ではおそらく、専攻分野や性別等の「多様性の確保」以上に重要とされた原則が存在したのでしょう。だとすれば、その原則とはいったい何だったのでしょうか。当然ながら候補者個人に関する議論を公表することはできないと思いますが、選考の透明性を確保する意味でも、今回の議論ではどういう観点が重要とされたのか、その説明責任が選考会議にはあると考えます。説明不十分、納得不十分なままで意向投票に進み、これから6年間総長を務められる方の選考に進んでしまうことは、東京大学の歴史に禍根を残しかねません。そうならないためにも、現在進行中の選考プロセスをいったん停止し、すなわち9月30日に迫っている全学の意向投票をひとまず延期し、十分な調査検証を行い、学内外に対して十分な説明をおこなった上で、誰もが納得のいく形で選考を再開するという、勇気ある判断も必要ではないでしょうか。先生には文字通り「釈迦に説法」ですが、東京大学憲章の前文には次のように書かれています。「東京大学は、国民と社会から付託された資源を最も有効に活用し、たえず自己革新を行って、世界的水準の教育・研究を実現していくために、大学としての自己決定を重視するとともに、その決定と実践を厳しい社会の評価にさらさなければならない。東京大学は、自らへの評価と批判を願って活動の全容を公開し、広く世界の要請に的確に対応して、自らを変え、また、所与のシステムを変革する発展経路を弛むことなく追求し、世界における学術と知の創造・交流そして発展に貢献する。」
東京大学が「大学としての自己決定を重視」し、「その決定と実践を厳しいい社会の評価にさら」すためには、「自らへの評価と批判を願って活動の全容を公開」し、「自らを変え」ていく勇気と謙虚さが必要です。総長選考は、まさにそうした勇気と謙虚さをもって実行されなければなりません。
私たちはすでに東京大学を離れた身ですが、東京大学を愛する気持ちは人後に落ちないつもりです。そしてそれはもちろん、先生も同様であると信じております。まことに僭越とは存じながら、以上の要望を述べさせていただく所以です。
2020年9月25日元東京大学理事有志
大和 裕幸(幹事)
石井洋二郎 江川 雅子
清水 孝雄 南風原朝和
長谷川寿一 古 谷 研
保立 和夫 松本洋一郎
武藤 芳照質問状に対する「回答」への公開質問状
総長選考会議議長名の「回答」が不十分であるため、それに対する公開質問状を掲載します。
公開質問状
東京大学総長選考会議
議長 小宮山 宏 殿
まず、われわれの質問状に対し、一定の回答がなされたことについて感謝します。そのうえで、貴職の回答はわれわれの疑問に十分に答えていないため、公開質問状というかたちでその点を明らかにするとともに、再度、総長選考プロセスの透明性と公平性の回復をただちに求めます。事態の緊急性に鑑み、2020年9月28日(月)12時までに、下記連絡先宛ての電子メールでご回答いただくことをお願い申し上げます。以下、最初の質問状の番号(それに応じた回答の番号)に沿って質問いたします。
1.質問状で下線が引かれて強調されている「5名まで推薦可能であるのに、なぜこのように偏向した少人数の人選を行なう必要があったのでしょうか」という問いにこの回答は答えていません。「求められる総⻑像に照らして最良の候補者を選出する」ためには、まず意向投票で本学全教員の意思を問うべきであり、総合大学としてそのための選択肢はより多く示されるべきではないでしょうか。貴職名の回答には「候補者を3名にすることに関しても、総⻑選考会議で十分に討議した上で合意したものです」とありますが、信頼できる情報によれば、候補者を「3名以上5名以内」とする今回の内規改正については、明確な根拠を会議で示された覚えがなく、「幅をもたせるため」といった漠然とした理由しかなかったとのことです。過去の規定が「5名程度」であったことを踏まえれば、「幅をもたせるため」であれば、「3名以上7名以内」でも良いはずのところを、なぜ「3名以上」と数を減らす可能性を拡げたのか、その理由について、総長選考会議における議論を明確に開示していただけますか。
2.「第2次候補者に選出されなかった方々への配慮から」氏名は公表しなかったとありますが、代議員は教職員の代表ですから、その投票結果については(票数や順位は別としても)、少なくとも氏名を教職員全員に公表するのは当然ではないでしょうか。逆に、もしこの論理でいくとすれば、第2次候補者についても「最終的に総長に選出されなかった方々への配慮から」最後まで外部には公表しないのが筋ではないでしょうか。それを10月2日に公表するとしているのは矛盾ではないですか。すなわち、「第2次候補者に選出されなかった方々への配慮から」とは根本的な理由には思えません。また、「今回の第1次総⻑候補者の方々にも、氏名は公表しないことをお知らせした上」とありますが、このように「公表しない」旨は総長選考会議規則や内規には規定されておりません。さらに、われわれが得ている情報では、第1次総⻑候補者に対し「氏名は公表しないことをお知らせした」事実はありません。いずれにしても、ではなぜ、現在の総長選考会議ないし貴職はみずからの権限において「公表しない」という決定を行なったのか、その理由をお示しください。「過去の選考においてもその人数・氏名は公表しておりません」とありますが、これを悪しき慣例として、今回は公表することをわれわれが求めているのは、質問状の1の項目で指摘したように、第2次候補者の選定過程に対する深い疑義ゆえです。ついては、総長選考会議の権限において決定できるはずの第1次候補者の氏名開示を改めて要求します。その際、「氏名は公表しないことをお知らせした上」であるならば、総長選考会議の責任において、第1次候補者おひとりおひとりの許可をいただけば済むことではないでしょうか。
3.この回答は、前回の総長選考までは氏名を公表していたのに今回は公表していないことの理由にはなっていません。また、「学外の意見等を取り入れる環境に対応することはないと判断し」とありますが、氏名の対外的公表は「学外の意見等を取り入れる」ためではなく、あくまでも選考過程の透明性の確保のために求めているものです。また、「学外の意見等を取り入れる環境に対応することはないと判断」したのがどなたであるのか、主語が明確ではありません。選考会議において合意の上ででしょうか、それとも議長の独断でしょうか。繰り返しますが、質問事項3への回答は回答になっていないため、「第2次総長候補者の氏名」についてまで「取扱いにご留意願います」と、箝口令を思わせる措置を取る理由は何なのか、説明してください。
4.貴職とわれわれとのあいだには総長選考の「透明性・公平性」をめぐって認識の大きな違いがあるように思われます。たとえば、質問状の3で問題にしたような措置をわれわれは明確に「透明性」に反する行為だと考えます。だからこそ、「いったいどのような「所要の見直し」により、どのように「透明性・公平性」が高まったと判断しているのか、具体的に説明していただけますか」とお訊ねしました。しかしながら、貴職の回答は、現在にいたるまでの総長選考に関する検討プロセスとそれが4月28日に開示された事実を述べているだけで、これもまたわれわれの問いに対する答えになっておりません。このままでは、総長選考会議が主導する総長選考は、われわれが「透明性・公平性」と考える基準からますます遠ざかってしまいかねないという大きな危惧を覚えます。ですから、どうか貴職のお考えになる総長選考の「透明性・公平性」とはいったい何であり、たとえば4月における内規改正のいったいどれが「透明性・公平性」を高めるための「所要の見直し」なのかをお答えいただけないでしょうか。
最後に、われわれの質問状を「より一層透明性のある選考とするためのご提言」「より良き総⻑選考の在り方への提言」と受け止めていただけるならば、総長選考会議の権限で、議長のご英断により、その提言をただちに現在進行している総長選考のプロセスに反映させていただけないでしょうか。そのための時間はまだ十分にあると考えます。4月28日の文書で貴職は「社会からの期待に応えられるよう、東京大学の良識や伝統に則して、各構成員の真摯な行動により、総長選考が適正に実施されなければならないと考えております」と書かれました。われわれは「東京大学の良識や伝統」を信じるがゆえに、真摯な気持ちで先の質問状とこの公開質問状をまとめました。議論はすでに社会に開かれております。貴職の真摯なご回答を切に希望しております。
2020年9月23日
東京大学教員有志
代表 田中 純(総合文化研究科)
阿部公彦(人文社会系研究科)
佐倉 統(情報学環)
清水晶子(総合文化研究科)
水越 伸(情報学環)
山田広昭(総合文化研究科)
連絡先:田中 純
選考会議の回答
回 答
東京大学教員有志の皆様
2020年9月16日付けの皆様からの質問状を拝受いたしました。貴重なご指摘であり、より一層透明性のある選考とするためのご提言をいただいたことに深く感謝申し上げます。
ご質問いただいた事項については、番号に沿って以下の通り回答いたします。1.総⻑選考会議では、このたびの第2次総⻑候補者の選考にあたり、学問分野、部局、年齢、性別、学内の方か学外の方か、といった候補者の属性を特別に意識することはせず、求められる総⻑像に照らして最良の候補者を選出するという方針で臨み、慎重かつ丁寧な検討を行ってまいりました。その結果が今回の候補者の方々となった次第です。候補者を3名にすることに関しても、総⻑選考会議で十分に討議した上で合意したものです。
2.第1次総⻑候補者については、⽴候補制は採らず代議員会及び経営協議会からの推薦により選出されたものであり、第2次総⻑候補者に選出されなかった方々への配慮から、過去の選考においてもその人数・氏名は公表しておりません。今回の第1次総⻑候補者の方々にも、氏名は公表しないことをお知らせした上で書面の作成と面接審査へのご協力をお願い致しました。こうした経緯を踏まえ、第1次候補者の方々の氏名は公表しない扱いとしております。
3.意向投票の投票有資格者は学内の教員のみですので、学外の意見等を取り入れる環境に対応することはないと判断し、現時点での学外への公表を控えた次第です。なお、今回の総⻑選考の選考理由と選考過程は、10月2日に公表することとしており、第2次総⻑候補者の氏名はその時点で公表する予定です。
4.今回の選考プロセスは、総⻑選考会議において、昨年度までに学内(各部局⻑等)の意見も確認しながら時間をかけて審議・決定し、4月28日に学内外にお示ししているところです。このたびいただいたご意見については、より良き総⻑選考の在り方への提言と受け止め、今後の検討に生かして参ります。
回答は以上となります。
総⻑選考への引き続きのご協力を賜りますようお願い申し上げます。
2020年9月23日
東京大学総⻑選考会議
議⻑ 小宮山 宏
教員有志の質問状
質 問 状
東京大学総長選考会議
議長 小宮山 宏 殿
次期総長予定者の選考に関し、本年9月8日付で貴職の名により、「第2次総長候補者の決定について(通知)」という文書が本学教職員に通知されました。その内容およびそれにいたる経緯について、選考の透明性・公平性の観点から多くの疑義があるため、以下の通り、質問いたします。意向投票の期日が迫っているところから、2020年9月23日(水)12時までに、下記連絡先宛ての電子メールでご回答いただくことをお願い申し上げます。なお、本質問状は総長選考の過程を問題にするものであり、すでに発表された個々の第2次総長候補者の批判を意図するものではまったくないことを念のためにお断わりしておきます。
1.第2次総長候補者3名は工学系2名、医学系1名であり、いずれも理系です。本年4月28日に総長選考会議にて改正された「東京大学総長選考会議内規」8条では、「3人以上5人以内の第2次総長候補者を定めるものとする」とあり、たしかに3人のみの推薦も許容されています。しかしながら、たとえば文系が1名もいないこの候補者の顔ぶれは総合大学としての観点から見て著しく多様性を欠いたものであり、投票の選択肢を過度に狭めるものと言わざるを得ません。5名まで推薦可能であるのに、なぜこのように偏向した少人数の人選を行なう必要があったのでしょうか。
2.代議員の投票および経営協議会からの推薦によって選出された10名程度の第1次総長候補者の氏名については、本学教職員には通知されていません。現状のように第2次総長候補者3名のみが通知されるだけでは、一般教職員の代表である代議員の投票結果との関係がまったくわかりません。たしかに得票数や順位については非公表とされていますが、総長選考会議の選考基準・方針を示す意味でも、総長選考会議の権限において、第1次総長候補者の氏名(代議員投票による候補者と経営協議会からの推薦による候補者の別も)については本学教職員に周知すべきではないでしょうか。周知できないとすれば、その理由は何でしょうか。東京大学総長選考会議規則および東京大学総長選考会議内規に、第1次総長候補者の氏名を秘匿すべしという規定はありません。
3.貴職の名による9月8日付「第2次総長候補者の決定について(通知)」には、「第2次総長候補者の氏名並びにこれらの資料については、学内のみに公表するため取扱いにご留意願います」とあります。個人情報に関わる資料については、たしかに過去の総長選考にあたっても取り扱い注意の対象でした。しかしながら、「第2次総長候補者の氏名」についてまで「取扱いにご留意願います」とは、総長選考過程を隠匿するがごとき要請に思われ、選考の透明性の観点から重大な問題があるのではないでしょうか。氏名についてまで、このような箝口令を思わせる措置を取る理由は何なのか、説明してください。
4.本年実施された京都大学の総長選考をめぐっては、京都大学教職員組合や教員・学生の有志による候補者への公開質問状が複数出されたり、大学構成員による自主的な意向投票が行なわれたりしたと仄聞します。北海道大学では、総長の解任にともなう総長選考において、全候補者に対する公開質疑が行なわれ、それぞれの候補が所見を述べ、教職員や総長選考会議委員などの質問に答えています。
このような他の国立大学における総長選考と比較するとき、本学総長の選考過程が透明性を欠いていることは否めません。本年4月28日付の貴職名による文書「総長選考の実施について(通知)」に貴職自身がこう記しています──「特に、代議員会からの第1次総長候補者の推薦や第2次総長候補者への投票をめぐっては、学外の関心も高いと想定されるところです。社会からの期待に応えられるよう、東京大学の良識や伝統に則して、各構成員の真摯な行動により、総長選考が適正に実施されなければならないと考えております」。そのように考えるならば、われわれが2で触れた「第1次総長候補者の氏名」の公表を率先して行ない、第2次総長候補者名についても積極的に外部に公開して、総長選考プロセスに関する学外からの正当な関心に応え、公明正大で透明な選考過程であることをアピールすることにより、社会からの期待に応じるべきではないでしょうか。この貴職名「総長選考の実施について(通知)」には、「今般の総長選考については、大学に対する社会的要請にも留意し、総長選考会議が主体となって進める選考の透明性・公平性を一層高める観点から、所要の見直しを行ったところです」とあります。しかしながら、われわれ教員の実感としては、上記1〜3の疑問が示す通り、過去の総長選考よりも透明性・公平性が高まったとは言えず、むしろ、はるかに不透明かつ不可解なものになっていると指摘せざるを得ません。いったいどのような「所要の見直し」により、どのように「透明性・公平性」が高まったと判断しているのか、具体的に説明していただけますか。
以上です。
上記の質問は今回の総長選考自体の正当性・妥当性に関わるものであり、冒頭に示した期限までに、可及的速やかな回答を期待しております。なお、回答をいただいたうえで、本質問状と合わせ、学内外に公開します。また、回答を期限までに頂戴できなかった場合には、本質問状のみを公開することを申し添えます。
2020年9月16日
東京大学教員有志
代表 田中 純(総合文化研究科)
阿部公彦(人文社会系研究科)
佐倉 統(情報学環)
清水晶子(総合文化研究科)
水越 伸(情報学環)
山田広昭(総合文化研究科)
連絡先:田中 純
2020sochosenko.frage@gmail.com
関連情報リンク集
東京大学総長選考に関するリンク集です。
東京大学公式情報
東京大学が公開している情報です。
・総長選考会議の組織検討ワーキンググループの検討結果に関する報告(最終報告)(2021年11月18日 報告書PDF 附属資料PDF)
・「総長選考会議の組織検討ワーキンググループ」設置(2021年4月20日総長裁定PDF)
・総長選考会議の組織検討タスクフォース報告書(2021年3月)
・五神総長メッセージ ― 総長選考プロセスの検証結果を受けて ― (2020年12月11日)
・五神総長メッセージ ― 総長選考プロセスの検証について ―(2020年10月9日)
・五神総長メッセージ-次期総長予定者の決定を受けて- (2020年10月2日)
・総長選考会議(全体):「総長選考会議委員名簿」はここにあり。
関連報道など
関連報道などの情報です。他大学の動向ながら、筑波大学の学長選考については、同じ国立大学法人をめぐる直近の事態として深刻であり、このセクションで詳しく取り上げています。
・東大の総長選考、昨年の混乱受け制度見直しへ 総長経験者は排除(朝日新聞デジタル、2021年11月18日 20時30分)「東大だけでなく各国立大の学長選考会議が、学長を選んだり牽制(けんせい)したりする役割を担うにもかかわらず、そのメンバーの選出の仕組みは学長の意向が反映されやすいものになっていることを問題視。こうした現行制度について「法制度的な課題」があると指摘した。」
・東大の学長選考「学長経験者は関与させず」…WG最終報告、「不透明」批判で見直し案(読売新聞オンライン、2021年11月18日)「WGの最終報告では、選考会議の組織や運営の改善は「ガバナンス(組織統治)の仕組みを備えるうえで、極めて重要な課題」と指摘。学長が退任後も学外委員として選考会議に携わることは、「大学経営に影響力を及ぼし続ける危険を生じさせる」とした。選考会議の学外委員を選ぶ際の基準や選んだ理由などの公開も示した。」
・【東大総長選考】11月中に検証結果公表へ 他大学有志と連携の動きも(東大新聞オンライン、2020年11月16日)「東京大学新聞社の取材によると検証委員会の委員を務めるのは、委員長を務める元最高裁判所裁判官の泉徳治弁護士、元検事総長の樋渡利秋弁護士、田中克郎弁護士、菊田行紘弁護士、大河原遼平弁護士の5人でいずれもTMI総合法律事務所に所属。検証に関する業務を担当する東大本部監査課の担当者は「豊富な実績と専門的知見を有する泉弁護士と樋渡弁護士が所属するTMI総合法律事務所に対し、人選を含めて検証を依頼した」と話している。担当者には検証の結果過失があるとされた人物が懲戒処分などを受ける可能性や、過程に問題があった場合に選考をやり直す可能性についても尋ねたが、回答を得られなかった。」
・混乱する国立大の学長選考 教員の意向かトップダウンか(朝日新聞デジタル、土屋亮、2020年11月12日 22時00分)
・筑波大・東大学長、選考過程ブラックボックス化(毎日新聞、)
・「筑波大学の学長選考を考える会」により、「筑波大学学長選考会議議長 河田悌一氏(元関西大学学長)辞任要求」の署名活動が行なわれています。
・永田学長を再任 筑波大 選考プロセスの正当性問う声噴出(NEWSつくば、2020年10月21日)「教員有志が批判「公開性と公正性欠く」」と題した問題点についての指摘が詳しい。
・筑波大学長選の正当性訴え 批判に「いちゃもん」とも(共同通信、2020年10月21日19時42分)「〔学長選考会議議長の〕河田氏は教職員らでつくる「筑波大学の学長選考を考える会」が透明性を疑問視していることに、河田氏は「変な会がいちゃもんつけた。大学教員としての資格は大丈夫かと思う」と批判した。」
・筑波大学学長に永田恭介氏再任 「選考過程が不透明」の意見も(NHK NEWS WEB、2020年10月21日 17時57分)
・筑波大学長に永田氏再任 任期制限撤廃で学内紛糾の末(朝日新聞デジタル、2020年10月20日20時56分)「今回の学長選で、学内規則の変更で上限6年の学長任期が撤廃されたほか、常勤教職員による意向調査投票も廃止された。選考会議メンバーも永田氏が任命していた。このため、教職員の間から「現職の続投ありきの手続きが進められている」と不満が噴出し、公開質問状や選出の延期を求める要求書が送付されたりして学内が紛糾していた。」
・「大学暴走に歯止めを」 全国で進む学長の権限強化 大分でシンポ(毎日新聞、2020年10月20日10時01分)「最後に「学長への権限集中は科学技術政策や経済界の要求、政府の意向に大学を従順に従わせるため。学長への不当な権限集中を阻止し、大学の自治と学問の自由を守ることを目指す」とする決議を採択した。」
・学術会議任命拒否の菅首相 次の狙いは「東大民営化」か(週刊ポスト、2020年10月18日11時)次の記述あり──「竹中氏が提唱しているのは、東大を民営化することによって研究に競争原理を導入し、大学としての国際競争力をアップさせるという主張だ。/政府は大学による債券発行を規制緩和し、東大は「東京大学FSI債」を発行して200億円を集めるなど、民営化をにらんだ財務体質強化を急いでいるようにみえる。/・・・/「政府が東大民営化の方針を打ち出せば、それに反対する教授は“嫌なら辞めてくれ”ということになる。竹中さんが大臣時代に手がけた郵政民営化の時がそうでした。」
・東大総長選:小宮山劇場の「おしまいデス」──次は音声テープ漏出か、国民に知られてはまずい裏の裏(阿部重夫氏、JBPress、2020年10月14日)「劇場型政治」に仕立て上げられている記事でうんざりしますが、いままで知らなかった9/7の選考会議に先立つやり取りが克明に記されている点は貴重。
・東大総長選、大混乱の理由 議事録入手、覆った投票1位(朝日新聞デジタル、2020年10月14日5時)
・東大劣化の象徴…総長選「消された音声データ」の中身が示す「ヤバい実態」(伊藤 博敏、現代ビジネス、2020年10月8日):データの扱いはフェアですが、小宮山宏議長の責任問題に収斂させ、「東大劣化」でまとめることではこの事件の本質は見えないと思います。なぜこのようなことが起こってしまったのか、その原因を剔る続報が必要でしょう。
・東京大 新総長選考めぐる会議の音声データを事務局が消去(NHK NEWS WEB、2020年10月5日 15時19分)
・東京大新総長に藤井輝夫氏決定 選考過程に質問状や要望書も(NHK NEWS WEB、2020年10月2日 18時26分)
・「いったい誰が土下座するのか」東大総長選をめぐるドロドロの権力争い── 「怪文書」すら飛び交う異例の事態(チーム「ストイカ」、PRESIDENT Online、2020年10月2日):代議員投票の得票など、詳しい内部情報まで含まれているものの、われわれの一連の活動についての記述は不正確です。また、部局長の要望書や元理事の要望書にはほとんど触れていません。この記事が、総長選考問題をわかりやすい学内の権力争いとしてのみ扱っていることを危惧します。
・東大総長選2020 東大新聞特設サイト(東大新聞オンライン、2020年9月28日)
・東大学長選が大混乱 「プロセスが信用失っている」、教員有志が大学に質問状(東京新聞、Tokyo Web、2020年9月27日)
・元東京大学理事有志10名からの総長選考会議議長および委員宛要望書〔全署名入り〕(2020年9月25日)
・【速報・東大総長選考】元東大理事有志が要望書を提出 選考の一時停止などを求める(東大新聞オンライン、2020年9月25日)
・東大総長選で教員から「透明性」に疑義 有力候補者が選考から漏れる(AERA dot.、2020年9月25日17:52)
・東大総長選 “候補者の選考過程に疑義” と4学部長らが要望書(NHK NEWS WEB、2020年9月25日17:09)
・東大総長選考で学部長らが要望書(NHK首都圏 NEWS WEB、2020年9月25日16:40)
・東大新総長選びに「疑問」 ノーベル賞梶田氏らが要望書(朝日新聞DIGITAL、2020年9月25日19:22)
・「東大総長選考 “透明性や公平性に疑義” 複数の教授が質問状」(NHK NEWS WEB、2020年9月23日12:33)
・「東大総長選考 疑義あると質問状」(NHK首都圏 NEWS WEB、2020年9月23日12:00)
・【速報・東大総長選考】議論の透明性に「待った」 総合文化・田中教授ら小宮山選考会議長に質問状(東大新聞オンライン、2020年9月23日)
・Togetter──東大総長選考をめぐる「疑念」:次期の東京大学総長の選考をめぐる手続きが「かなり変だ」との指摘が、複数の筋から出ています。
他国立大学の総長選考情報
他の国立大学における総長選考の情報です。注目すべき動向のみ。
・2割で教職員投票廃止 1割で投票結果覆す 国立大学長選考 自治危ぶむ声も(毎日新聞、2021年1月6日19時11分)
・筑波大学の学長選考を考える会(2020年10月9日以降、随時更新)
・筑波大学教職員組合つくば「学長選考会議に関わる公開質問状」(2020年9月15日)
・京大総長選学生情報局:「教員・職員・学生の声をweb投票によって可視化し総長選考会議に提出」という趣旨の意向投票結果(不信任である候補者を選ぶ除斥投票も実施)、公開質問状とその回答など。
・「総長選 第一次候補者6名決定 21日に次期総長選出へ」(京都大学新聞、2020年7月16日):予備投票結果も公開されている。
・「総長候補3人への公開質疑実施──北大総長選2020」(北海道大学新聞、2020年8月19日)
・「北大学長選、3候補論戦 公開質疑 学内再建を訴え」(北海道新聞電子版、2020年8月19日)
・九州大学・総長選考:今年の総長選考情報。「学内意向投票における最終候補者の得票」pdfのほか、「次期総長候補者の最終選考における投票結果」pdfも公開されている。
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